ツクモ吸血鬼VS神在月

「ワーハハハハ!オレ様はツクモ吸血鬼”好きな人の似顔絵をかかせたい”!」
神在月は驚いた。突然使っていたGペンがしゃべりだしたのである。しかもツクモ吸血鬼というではないか。
「お、俺のGペンがツクモ吸血鬼に!?しかもツクモ吸血鬼”好きな人の似顔絵をかかせたい”!?」
びっくりして叫んでしまうと、ツクモ吸血鬼はさらに高笑いしながら続ける。
「ワハハハハ!そうだ~!さあ!オレ様で好きな人の似顔絵を描くんだ!でないとGペンの俺様だが丸ペンみたいな書き心地になってやる~!」
シャシャシャと動くと、線は細く、均一のものになっていた。
「いやだあああああタッチが全然違う絵になるウウウウでも好きな人の似顔絵をかくのも好きな人がバレるからやだ~~!!」
「お前の好きな奴、あのアシスタントだろ」
しれっとツクモ吸血鬼が言う。
「ばれてるううううううう」
「最近はあんなに素直に態度を変えておいてわからいでか!さあ、あいつの絵を描くんだ!」
「君をペン軸から引っこ抜いて別のを使う」
ぐい、とペン軸からツクモ吸血鬼をひっぱると、ツクモ吸血鬼が焦ったように暴れる。
「おいやめろ!ひっぱるんじゃない!それに俺を引っ張ったって無駄だぞ!ほかのペンたちも俺の支配下だからな!」
ツクモ吸血鬼から、違うGペンに変えて描いてみるが、ヤツの言うとおり線は細いままだ。
「さあかけ!かくんだ!」
「うええええん」
泣きながら辻田の絵を描く神在月。それでも好きな人の似顔絵だからか、自然と気合が入ってしまう。
カリカリと描いていると、ツクモ吸血鬼が話しかけてくる。
「なぁ、あのアシスタントのどこが好きなわけ?」
「ええ~そんなの恥ずかしくって言えないよぉ……
さっと神在月のほおに赤みがさす。ツクモ吸血鬼はからかうように、
「いいじゃん言っちゃえ言っちゃえ~」
とつづけた。
「う~ん……あのね、最初は本当に腕のいいアシスタントさんだなぁ……って思ってたんだけど、なんかね、そのうち、ぶっきらぼうだけど優しいところとか、ちょっとさみしそうなところとかが見えてきて、それで、なんだか気付いたら好きになってた」
照れながら話しているうちに、髪の毛の一本一本まで丁寧に描写された似顔絵が出来上がった。
「ふ~ん、あのアシスタント、お前にはこう見えてるんだ……
「そういうの言うのやめて!心に来る」
恥ずかしそうに言う神在月。
「だがいい絵だ。お前のLOVE、感じたぞ……
ツクモ吸血鬼はしげしげと似顔絵を見ると、満足そうにただのGペンに戻った。

それからしばらくして
……おい、この絵は何だ。新しいキャラクターか?」
「え? わ、ああああああ!それは!」
慌てる神在月を見て、辻田が不思議がる。そんなに慌てるような絵だろうか?
「え、とその、急に似顔絵を書かなきゃいけなくなって……それで辻田さんの似顔絵をかかせてもらったんだ」
一部を伏せて言うと、辻田が目を細めて似顔絵を見る。
「これは、俺か……
「うん、ごめんね、勝手にかいて」
「いい。そうか、俺はこういう顔をしているのか……
吸血鬼は鏡に映らない。吸血鬼がうつる鏡もあるにはあるが、ずっと放浪してきた彼には映る機会がなかったのだろう。しげしげと似顔絵を見る辻田。
「うえええん、好きだ・・・・・・・・」
「なんだ急に!」
辻田がさっと顔を赤らめた。その様子に神在月の胸がキュン、とときめく。
「ごめん、でも急にいとおしさが止まらなくなって・・・・・・・・」
「そ、そういうものなのか……?」
好き、と言われてまんざらでもなさそうな顔をしている辻田。これはワンチャンあるのだろうか。
「あの、もしよかったら、辻田さんのお気持ちを聞かせてもらえないでしょうか」
辻田の手をぎゅっとにぎる。二人とも顔が真っ赤だ。
辻田は握られた手を払いのけはしないで、ぽつ、と言った。
「・・・・・・・まぁ」
「うん」
「嫌いでは……ない」
「こういうことされても?」
さらに手をぎゅっと強くする。辻田の肩がびくりとはねるが、嫌がるそぶりはみせなかった。
……ん」
(あのツクモ吸血鬼はもしかしたら恋のキューピッドだったのかしらん)
そしてふたりは幸せなキスをして終了!