なれそめはパンケーキから


 カルデアから脱出して一息ついて、これからどうなるんだ?って時に、思ったのは飯のことだった。
だってそうだろ?どうみたってこの車に十分な食料が積み込まれているとは思えない。

せいぜいがパサパサのクラッカー、薬臭い合成肉。コーヒーだって泥水みたいなモンなんだろう。これから世界を救うのにそんなわびしい食事で頑張れるかなぁ…って、思ってたんだ。

最初は

「おお?おおおぉ………!」

目の前にあるのはフワッフワのパンケーキ。焼きたてで、しかも分厚いやつ。綺麗なきつね色で、見ただけでうまい!ってわかる。こんなのそこらへんの喫茶店にはまずお目にかかれない。
一枚で数センチはあろうかとおもうそれは、なんと3枚重なっている。
同じ皿には半熟の目玉焼きとカリッカリのベーコンがのせてあった。

その横にはバターやシロップが可愛らしい容器に入り、等間隔に置かれている。

漂うコーヒーの匂いは芳しく、いい豆を使っているとすぐにわかった。

「どうだね諸君!今日はマシュくんのリクエストでカフェ風のパンケーキだ!フワフワアツアツのところに好きなだけバターとシロップをかけたまえよ。コーヒーは3杯までだ」

キッチンから出てきたのは新所長ことゴルドルフ・ムジーク。そう、新所長がこの食事を作っているのだ。

最初は物資の無駄使いだと非難轟々だったが、意外にもうまくやりくりして最小限の消費でとてもそうとは思えないほどの豪華な食事が出てくる。見た目だけと思いつつ、食べてみるとエミヤ食堂で肥えた俺たちの舌にもうまいと思わせるほどの料理上手だった。

さらに錬金術を使うことで、傷んだ食べ物を新鮮にするばかりか明らかにランクアップさせており、なかなかに豊かな食生活を送っている。

さて、当の所長は自分用にとパンケーキにホイップクリームとフルーツを彩り、チョコレートシロップをかけたもの(あの人はいつも所長権限と言って他スタッフより豪華なものを用意している)を席に運んでいる。
作業をしていたからか、いつもの服の上に真っ白なエプロンをかけ、なぜかお腹のポケットにはフォウが入っていた。頭だけぽん、と飾りのように出ているフォウは、焼きたてと思われるカリカリのベーコンを貪っている。

「アッ、こら、こいつ、いつの間に私のポケットの中に!それは私用の厚切りベーコンではないかっ!!!」

「フォウフォ~ウ!」

ムシャムシャとベーコンを食べるフォウに気がついたのか、所長が抗議する。フォウは知ったこっちゃないというように、食べるのをやめない。

「お前はエサがあるだろう!そちらを食べれば良いのだ!」

「フォフォ~ウ??」

言い争いを流し見つつ、スタッフが席に着く。あの二人(?)の喧嘩はいつものことで、たぶん、あれはコミュニケーションなのだろう。俺も適当な席について、近くにあったポットからコーヒーを注ぎ、飲んだ。

「コーヒー、うまっ!」

 俺はコーヒーはよくわからないが、匂いがいいし、苦味と酸味のバランス?っていうのか。それが整っている気がする。

「ほほう、わかるかね!この私の特製ブレンドが!」

 遠くで所長がなにか言ってるが、無視してパンケーキを食べ始める。半熟卵とベーコンを一緒に食べると、具のしょっぱさとパンケーキの甘さが混ざってめっちゃうまい。
それにこのパンケーキ、外側がカリッとして内側はしっとりふわふわなのやべぇ。焼きたてのパンケーキってこんなにうまいのか!

 カルデアで英霊エミヤの飯で舌が肥えたと思っていたが、所長の腕前は俺たちを十分に満足させる味なのだ。
むしゃむしゃと1段目を食べ終わり、2段目はバターとシロップをじゃぶじゃぶかけていただく。文句なしにうまい。

いつの間にかマシュや立香も来て、飯を食っていた。マシュは今にもほっぺが落ちそう!って顔をしている。可愛いなぁ。顔がにやける。テンション上がりすぎて横にパンくずついてるのにも気がついていない。くぅ~!あざとい!かわいい!天然って怖い。マシュは興奮したまま所長お手製のパンケーキの美味しさについてコメントをし始める。

所長は得意げにうんうん話を聞いている。ヒゲがピコピコ動いて随分と機嫌が良さそうだ。

「~~~特にこの、厚み!ここまで分厚く、しかもふわふわに!焼き目だってきつね色でとっても美しいです!そう思いませんか、ムニエルさん!」

「あっ、ええっ、俺?」

 突然話題を振られてビクッと体が止まる。驚いてマシュを見ると、すっごい笑顔でこっちを見ていた。眩しい!かわいい!!!まだパンくずついてるぞマシュ!

「はい!ムニエルさん、先程から夢中で食べてらっしゃるじゃないですか!」

「ああ、うん……」

いや、まあ。実際うまいしな…。ちら、と所長の方を見ると、ものすごく、そわそわしながらこっち見てる……ううっ…フォウまで見てる…なんでだよ…こっちみんな…これは何か言っとかないとな。

「まぁ実際所長の作る飯うまいっすよね」

「はい!エミヤさんのご飯も美味しかったですけど、新所長の作られるご飯は、食堂やダイナーで食べたことのない味というか...そんなものが感じられます」

「あ~...ちょっとわかるかも」

エミヤの飯はめちゃめちゃうまかった。確かな技術とこだわり、そして手間暇がかかっている。高級レストランの味という感じがする。そんで新所長の飯は美味いんだが、なんていうか、家で飯食っているような安心感があるのだ。

「家庭的っていうの?なんか食べててホッとするっていうか。味も好みだし。正直嫁に欲しいぐらいっすよ」

 ハハハ、と笑って。軽い冗談を言ったつもりだった。

「・・・・・・ッ!///」

なんで、そんなに顔を赤くしてるんですか、新所長・・・・!

「はっ、はえぇっ・・・・!///」

なぜかマシュもつられて赤くなっている。ついでに立香も顔が赤くなっている。妙な空気が漂う。

「ムニエルさん、それは、あの、プロポーズ・・・ということでしょうか・・・?」

 マシュが恐る恐る聞いてくる。

「ちがっ違うぞマシュ!?今のはあくまでジョークだからっ!…っていうかなんで所長も顔赤くしてるんですか!」

「ゴホッ!うん?いや、そうだな、勿論冗談だというのは分かっていた。今のはちょっぴり驚いただけだ。うん。ああ。まあ。ただ、そうだな、

 じょ、冗談だとはわかっていつつも、誰かに欲しいと求められたのはな、ウン、は、はじめてだったものでな…ゴホッ…」

 所長の声はしょんぼりと徐々に声が小さくなっていく。その様子に。立香がガタッと立ち上がってオレを非難した

「ム、ムニエルさん・・・!ひどいや!新所長のはじめてを奪うなんて!」

「だー!誤解のあるような言い方をするのはやめろ!」

「誤解があるもなにも事実じゃないですか!」

「その言い方は語弊があるだろ!」

マシュはあわあわしてこっちを見てるし、新所長も「やめたまえ!」と止めようとしたんだが、よくわからんうちに言い合いはヒートアップしていった。

結局、騒ぎを聞きつけたダ・ヴィンチちゃんが来るまで俺と立香は喧嘩してた。

そして俺はこの後からなんとなく新所長のことを意識するようになり最終的に世界を救ったら抱かせてくれ!と迫るようになったのは別の話だ。

おわり