先日のレイシフトで重傷を負ったクー・フーリン・オルタは、カルデアに戻るなり救急治療室に放り込まれた。
令呪を使用し、カルデアの魔力を通常よりも多く注ぎ込み、それでも怪我はじくじくとして全快まではいかない。
それでも次の戦闘に出ようとするものだから、立香はまた別に令呪を使い、怪我が治るまで戦闘禁止、とオルタを治療室に留まらせた。
「いい?見かけだけじゃないよ?ちゃんと中身まで全部戻ったら、わかった?!」
「俺はお前の槍だ。武器がなかったらお前はどうやって戦う」
いつもよりさらに険しい顔。むく、と起き上がるが、ベッドからは出さなかった。令呪は確りと効いているらしい。
(うーん、基本的には素直ないいやつなんだけどなぁ……こういうとこやっぱり頑固!)
お前の槍だ、と常日頃からそう言ってはばからないのが彼だ。
立香はすうっと息を吸うと、オルタに向かって言った
「確かにお前はおれのたよりになる武器でサーヴァントだ。でも壊れかけた武器は戦場に持っていかない。武器にだって手入れが必要でしょ?しっかり手入れして、またぴかぴかの綺麗な状態になったら、また一緒にいこう」
ね?
軟らかい口調だが、絶対にノーとは言わせない、といった目線で、じっと見つめる。
オルタはしばらく黙っていたが、やがて
「………ケッ」
ごろりと横になった。
「ん、よろしい!ダヴィンチちゃんの話だと今日の夕方くらいまでには治るそうだから、それまでゆっくりしててね」
「ああ」
もはや興味はない、といった様子で丸くなるオルタ。ここで暴れるよりはさっさと直してしまおうと思ったのだろう。流れ込んでくる魔力を治癒に回そうと、自らの魔力消費を減らすために武装も解いて眠ってしまうようだ。
「んじゃ、いってきます。電気消しとくね?」
立花の言葉に返事は無かった。
[newpage]
***
どれくらい時間がたったのだろう、オルタの目がふっと開く。
起き上がると、痛みはないが、胸部に―――先程までは抉れかかっていた場所だ―――違和感があった
(…………?)
「あ、起きたね」
オルタが起きた事に気が付いたのだろう。ダ・ヴィンチちゃんが来て、てきぱきとオルタのからだの様子を確かめる。
「んー、ほぼ完治、ってとこかな?いやぁ思ったより傷の治りが早くて何よりだ」
「俺はもう出ていっていいのか」
「ほぼ、といったろう。もう少し待ちたまえ」
「…………」
憮然とした表情で、ふい、と顔をそむけてしまう。
ダ・ヴィンチちゃんが苦笑する。
「ま、おとなしく休むことだ」
ベッドの前のカーテンが閉まり、オルタはまた目をつぶった
***
遠い意識の外で、ぼそぼそと話し声が聞こえる。
男と女の声だ。女は、先程話していた魔術師だろう。男の方にも聞き覚えがあった。エミヤオルタだ。 なにやら長々と話しているようだ。真剣な口調だが、特に緊迫した雰囲気ではない。漏れ聞こえる単語も特に自身に関係もない様子だ。
関係ないものには興味がない。またうつらうつらと寝入ろうと、ごろりと寝返りをうとうとして、胸の違和感が強くなっているのに気が付いた。
胸が、張っている。胸筋……女性でいう乳房の部分。パンパンに張って、張りが強くて痛みさえ伴う。
「…………?」
ちら、と見ると、そこはお椀のように、膨らんだ己の胸があった。
「なんだ、これは」
ぷに。指で押してみると、ツキリと痛む。乳首が勃起しているのは張っているせいだろうか?
「不愉快だ…」
これしきの傷みなど問題はない。寝てしまおう。
うつ伏せになり眠ろうとしたところで、布団が胸に当たる。すると、痛みとともにじわ、と何かが胸から漏れる。
「……………アッ…!?」
驚きで声が飛び出る。
なんだこれは。出てきたものは黄色みがかった白い液体だ。指ですくいとると、ほのかに甘い香りがする。
すくったそれを舐めてみると、濃厚でわずかに甘い。そしてサーヴァントの体液にしてはあり得ないほどの濃い魔力が含まれている事が感じ取れる。
「???」
意味がわからなかった。これは、母乳だろうか。男である自分が、なぜ?現象の原因は。
疑問が頭をぐるぐる回る。
その間にも母乳はつうっとこぼれて胸をつたう。
不快な感触だった。
「……チッ」
ごしごしと手で拭くが、乾くどころか、拭く度に新たに母乳がじゅわ、じわと出てくる。
どうやら胸を押された圧力で、出てきてしまうようだった。
辺りを見回しても、拭き取るものはない。
無視をして寝てしまおうか?先ほど吹いた部分がベトベトとしていている。目が覚めたらきっとあられもない状態になっているだろう。想像するだけで不愉快だ。
仕方がないのでベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
「……………おい、魔術師。なにか、拭くものをよこせ」
部屋にはやはりエミヤオルタもいて、二人がこちらを向く。
ダヴィンチがエミヤ越しにこちらを見つめる。
いつもの笑みが、オルタの胸を見るなり驚きに代わり、にまぁとした笑顔に変化した。なにか面白い状況になっているぞ、と思っているのがありありとわかる。
「いったいどうしたんだね、その、胸は!」
「起きたらこうなっていた」
「ほう…………!」
カチャカチャと音を立てて持ってきたのはビーカーと脱脂綿、アルコールだ。
「少し冷たくなるよ」
「おい、」
俺は拭くものを―――、と言う前に消毒用アルコールに浸された脱脂綿がオルタの乳首に当てられた
「ッア」
ひやりとした感触に一瞬、声がでる。
ふにふにとよく患部を消毒され、ビーカーをセットすると、ダヴィンチちゃんが楽しそうにオルタの胸から母乳を絞り出す。
ビュッビュッっと勢いよくでる乳は、セットされたビーカーにみるみるたまっていった。
溜まった母乳を口に含み、オルタにいくつかの質問をする。彼女はしばらく悩んだあとに、これは魔力の供給過多による魔力漏れだという結論を出した。
「魔力漏れだと?」
「そう。君は胸部に重度の損傷を負っていた。だから、体がそこを重点的に治そうと魔力を胸に集めたんだろうね。そのあとに治ったはいいが、魔力はまだカルデアから多めに供給されている。
その分が体内に貯める量を超えたので、母乳として体外に排出しようとしているのだと思うよ。胸から出ようとしているのは、魔力が溜まっている場所から一番乳首が近いからじゃないのかな」
彼女の説明にオルタの眉間に皺が寄る。
「…不愉快だ」
「まぁまぁ。今から私が魔力量を調節するよう頼んでくるから。そうしたらあとは胸から出し切ってしまえばもう出なくなるはずさ」
「…」
「そう嫌な顔しなさんな、原因が特定されたならあとは対処すればいいだけだろ?」
ダ・ヴィンチは後ろを向くと、エミヤオルタを呼んだ。
「エミヤオルタ、キミ、ちょっとこっちに来て手伝ってくれたまえ」
「ハ?!普通に嫌なんだが」
「いいから、あとでキミに使うやつだから」
「どういうことだ」
「ホラさっき話してたじゃないか、キミの記憶が時折すっぽぬける件の対処方法。材料にこの母乳使ってみようと思うんだよね」
「こいつの?!」
詳しく話せと近寄るエミヤオルタ。
「だからぁ~さっき言ったじゃないか~。キミは霊基がボロボロだから、それを少しでもとどめてあわよくばなおせたらって」
「そこまでは確かに聞いた。しかしなぜその狂王の乳など使わねばならん」
「これ、私が考えてた素材にぴったりなんだよね。ちょうど都合よく出てるし、使っちゃおうと」
テキパキとエミヤオルタにビーカーを渡し、自分は離れる。
「それじゃ、私は魔力減らすように言ってくるから。エミヤオルタ、クーフーリンオルタをよろしくね」
と言ってダ・ヴィンチちゃんは治療室から出ていく。
「おい、待て……」
「もしめんどくさかったら、お乳そのまま飲んじゃってもいいから!じゃあね~☆」
扉が閉まる。残されたのは、エミヤオルタとクーフーリンオルタの二人だった。
[newpage]
***
二人でしばらくドアを見ていたが、一向にもどる気配もない。エミヤはクーフーリンに向き直った。
「しかたがない、やるぞ」
「正気か」
こいつ、頭がおかしいのか?といった表情のクーフーリンに、エミヤは舌打ちをする。そんなの俺だって嫌に決まっている。
苛立ち紛れにどっかりベッドの上に座ると、やや下の位置の顔にむけて言った
「何がどうあれ結局お前は乳を絞られて、俺はそれを口にすることになる。だったらダラダラと先延ばしするよりもさっさとやったほうが賢明だとは思わないか?」
「……」
なおも憮然とした表情のクーフーリンにさらに続ける。
「イヤだったらお前は上を向いて、天井のシミでも数えていればいい。ホラやるぞ」
「…りょーかい」
いやいやながらも了承するクーフーリン。
「よし…。では、するぞ」
左手で、乳輪の少し下にビーカーを固定する。右手でクーフーリンの乳首をつまんで、ぐっと押した。
「イッ……」
クーフーリンが呻く。だが乳は出てこない。
「我慢しろ」
エミヤはそのうめきを無視してひたすら乳首をいじる。
「ンッ…」
「……?」
しかし、どれだけエミヤが乳首をさわっても、クーフーリンの胸からは、じわ、じわ、とにじみ出るように出るだけだ。
「難しいな…」
「ひあっ!?」
「おい、あまり動くな」
「わ、わかって…あっ」
「こうか?」
「ふ・・・・うっ・・・・んぁっ」
「ム…出ない……」
「…へたくそ…」
ウンともスンとも行かない状況に、頭上から罵る声が聞こえる。見上げるとクーフーリンの顔は僅かに赤みが差して、とろけるような、潤んだ目をしている。わずかに漏れる吐息が熱っぽい。
「チッ」
クーフーリンが舌打ちをする。胸を触られるたび、張っているところを押される、ツキツキした痛みともに、甘く快感を拾い上げてしまう自分が苛立たしい。
早く終わってくれと、目をつぶって、歯を食いしばった。
(あのクーフーリンが、こんな耐えるような顔をしているなど…そんなに痛むのだろうか)
一方そんなことを露とも気がつかないエミヤは、彼が痛みだけに耐えていると勘違いしていた。
先ほどより、優しくしたほうがよいのだろうか?おずおずと手つきを弱め、ことさらに優しく扱う。
搾乳の仕方を知らないエミヤは、乳首だけを触っている。勃起した乳首の先端を、ザラザラした暖かい指で押しつぶす。
「ふ、」
スイッチのように何度か押して、なにも出ないとわかると、今度は柔らかく挟んで、こねた。
「んんっ」
乳首を触られるたびに、快感がクーフーリンを襲う。それもそのはずで、クニクニと触る手つきは、愛撫そのものだ。しかしエミヤにはその自覚がない。
繰り返される刺激にクーフーリンは息も絶え絶えに、声を押し殺す。声が出ないように、手で口をおおったが、あまり効果はないようだった。体がふわふわとして、熱が上がっていく。
「ふあっ」
再度先端を押しつぶされて、びく、と背筋がはねた。
「…出ないな」
胸から手を離す。乳首はいじり過ぎたせいか、すっかり赤くなっている。そこはにじみ出た乳のせいで、てらてら光っていた。手を見ると、母乳が指先にも付着している。ぺろりと舐めると、ほのかに甘く、じんわりと魔力が身に染み渡るようだった。
「っふう…」
触るものがいなくなり、今まで張っていた気が抜けて、横に丸めていた布団に体重を預ける。くたりと倒れたクーフーリンの肌は、真っ赤に上気していて、うすいピンク色になっていた。しっとりと汗をかき、体を丸めて布団を握りしめている。荒い呼吸を繰り返すたび、上半身に刻まれた赤い模様が動く。
「ばかやろう…」
やっとのことでそれだけいうと、エミヤをじり、と睨めつける。熱でとろけた瞳では、ほとんどといっていいほど、意味をなしていなかった。ぼふん、と布団に顔をうずめて沈黙する。
(そんなに乳が張るのは辛いのか)
先程から、クーフーリンは痛みでダメージを受けていると勘違いしているエミヤは、いつものきりりとした眉をハの時にして、目の前の男を見つめる。いやいやながらもやっているとはいえ、自分がうまくできていないせいで、辛い表情をさせていると思うと、申し訳ない気持ちと一緒に憐憫の情がわいた。
腐り落ちたと自称しているが、もともと正義の味方だったエミヤは、誰かの役に立ちたいという欲を持っている。エミヤは今この状況で、その欲求が膨れ上がっていくのを感じていた。
クーフーリンを助けてやりたい。なんとかして乳を搾り出す方法はないものか。
検索でも出来たらいいのだが、雪山の真ん中にそびえ立つカルデアに公共の電波は入ってこない。そもそも英霊であるエミヤは携帯電話等ネットにつなげるものを持っていない。
検索すれば一発でわかるかもしれなかったが、ぐるぐると煮詰まる思考の中、そもそもその選択肢をすっぽりと欠落させている。
そしてあいにくと、聖杯も搾乳の仕方は知識として教えてはくれないようだった。
「これはもう、吸うしかないのか…?」
「は?」
聞き捨てならない言葉に、布団に顔を押し付けていたクーフーリンが顔を上げる。
「なにを、言っている」
「手でできないのなら口で吸い出すしかないだろう…」
ずい、と近寄るエミヤに、クーフーリンが無意識に後ずさる。エミヤの顔は真剣そのものだ。
「もうこうなれば意地だ。いくらおぞましい絵ヅラになろうとも、お前の乳を出し切ってみせる」
「考え直せ」
お前はもう少し冷静な男だったはずだ。言葉は男には届かない。しかし片方が壁では、逃げ場はないというもので。
あっという間に追い詰められてしまい、エミヤの顔が近づく。息が肌にあたってこそばゆい。
今ではそのかすかな刺激にさえ、ぞわりと肌が泡立つ。
「やめろ」
「やめない」
もみ合ううちに、バランスが崩れ、ベッドに倒れる。クーフーリンが押し倒されて、ベッドに沈むと、エミヤが額をコツン、と付き合わせて言った。
「あまり抵抗するな、お前も辛いだけだろうに」
視界に広がる鳶色は、澄んでいてゆらぎ一つもない。その瞳に映る己のなんと浅ましい顔をしていることか。いたたまれなくて、見ていたくなくて、目をつぶる。
それを了承ととったのか、エミヤがゆるゆると頭の位置を胸へと近づけていく。桃色の尖がりは、ぷっくりとふくらんで、乳臭い、甘い匂いを漂わせていた。
「ふ……」
胸の下にたれていた乳をぺろりとなめる。乳の甘さと、汗だろうしょっぱい味が口の中に広がる。不思議なことに不快ではない。ベトつきがなくなるまで舐め取ると、そのままつうっと乳首まで舌でたどり、乳首をぱく、と口に含んだ。
「んっ」
ぢゅうと口全体を使って吸い出す。すると、あれほど出なかった乳が、びゅうびゅうと出るではないか
「んむっ?!」
「ふっ」
驚きはしたものの、エミヤは口は離さずに、飲み込む。濃厚な魔力が喉を滑り落ち、体に吸収さされていくのを感じる。ダ・ヴィンチが言っていたように、たしかに霊基を補修をするのには悪くない素材だろう。吸えば吸うだけあふれる乳を、ごくごく飲み干した。
乳が出ればそれだけ楽なのだろう、狂王も少しおとなしいような気がする。ちらりと見れば、まだ顔が赤かったが、随分とリラックスしているような様子だ。先ほどのせわしない呼吸が穏やかになっている。
ちゅぽん、と乳首から顔を離すと、
「……ふぅっ」
と震えてはいたが、ずいぶんとすっきりした顔になっている。
「少しは楽になったか?」
「…ああ」
目線を合わない、ぶっきらぼうなつぶやきだ。それでも切羽詰った感じもないのでほっとする。
「次は反対側だな」
「……」
「もう一度手で絞ってみようと思う。コツを掴んだ、乳首だけでなく、全体を使って…」
身振り手振りを使って説明しようとするエミヤを手で制して、クーフーリンがぼそりと言う。
「いや、いい。もうお前にまかせる…」
「そうか、わかった。」
若干拍子抜けするが、体を起こして、ビーカーを反対側の乳首の下にあてた。
「じゃあいくぞ」
「ああ」
全体的に絞るように指を使う。びゅうびゅうと乳がビーカーに滴った。
「よし」
うまく乳が出たので、このまま続けて搾り出す。ビーカーに三分の二程出したところで一旦サイドボードに容器を置いた。
「随分でるもんだな」
「知るか」
胸を見ると、乳を出し切ったのか、膨らみは減って、女のようなそれではなくなっている。それでも乳首はまだ尖ったままで、ぷっくりとその存在を主張していた。
「クーフーリン、最後だ、拭くぞ」
「う、ぁ?」
アルコールに浸した脱脂綿を取り出して、ゴシゴシと拭く。先ほど乳が垂れていた部分もついでに拭いてしまう。
「ヒ、つめた、ぁ、」
「ベタベタするのはいやだろう?」
「バカ…ばかやろう…」
ビクビク震えるのは寒さのせいだろうか、エミヤには最後まで彼が何を思っていたのかはわからなかった。
[newpage]
***
それから何日か経った頃、ダ・ヴィンチから飴を渡された。例の母乳にいくつかの材料を加え、素の味を活かすために飴の形にしたそうだ。
「フム」
コロコロ口の中で溶ける飴は、なるほどあの時に味わった甘い味で。
(悪くないな)
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ぐいと強い力で部屋に引っ張られる。
「?!」
「おい…」
「クーフーリン?!」
部屋にたっていたのは、先日の彼だ。
「なんだいきなり」
クーフーリンは目を伏せるとぼそりと呟く。
「…また」
「?」
そこで一瞬ためらったあと、意を決したように続ける
「…乳が出る」
「なんだと?」
出し切ったはずではなかったのか?胸を見ると確かに以前よりは小さいが、確かに筋肉では造形し得ない膨らみがふたつ存在している。
「自分ではうまくいかなくて…」
かり、とエミヤの腕をひっかいて、袖をつまむ
「…また……」
ぎゅうっと握り締められた手はかすかに震えていた。
「…わかった」
そっと部屋のロックが閉められる。
二人が部屋から出てきたのは、それから…
おわり